私どもは、心の病気の方のカウンセリングを行っている。うつ病、パニック障害の方が多いが、この病気には、「自殺念慮」という症状が起きることが多い。パニック障害には元来、その症状はないが、パニック障害が長引いているうちに、「うつ」が併発する。
うつ病も病気であるから、インフォームド・コンセントが重要である。薬物療法の医者は、薬物療法のみについて、「抗うつ薬を服用すれば治ります。」といって、治療を始めるが、治ればいいが、患者(クライアント)の中には、治らない人がいる。治るかもしれないと思える期間は、3カ月だろうか、1年だろうか。それは重要なのである。身体の病気でさえも、治るという期待が大きく作用する。 薬物には「プラシーボ効果」があると言われる。確かな薬理効果がない物質(たとえば、食塩水)の投与や偽手術(開腹だけして、病巣をとりのぞかない偽手術)をしても、改善する患者が多いという。治験で行われているそうだ。
だから、心理的なストレスで発症した「うつ病、自殺念慮」を持つ人に接する医者やカウンセラーの言葉によって、患者がその医者やカウンセラーの手腕、カウンセリング技法を「信じる」「期待」するということが、うつ病、自殺念慮を治すのに大きな効果を発揮する。心理療法、カウンセリング技法に、「プラシーボ効果」がある。信頼できないカウンセラーにかかる、うつ病の患者は治らない。
6カ月たっても、薬物療法が効かない患者は、疑いはじめる。絶望を深める。一層、うつ病を悪化させるおそれがある。
私どものところに来るかたは、薬物療法が効かないという人、他のカウンセリングも受けたが、治らないという方が多い。薬物療法は、他の記事で述べたように、その効果は限界が報告されているから、効かない人がいたり、再発したり、だから、薬物療法を受けていても、自殺する人がいるのは、避けられない。だが、他のカウンセリング、心理療法でも、治らないとはどういうことか。患者を信頼させることができないからである。
- カウンセラーが、自分のカウンセリング能力に自信を持っていない。
- だから、クライアントが来た時に、「あなたは、このカウンセリングを受けると、きっと治りますよ。」と言えない。
- 認知行動療法は新しいカウンセリング技法であって、日本では普及しておらず、カウンセラーもこれを学んでいる人が少ない。
- つまり、カウンセリング技法には、種々あって、うつ病、自殺念慮を治療できるという原理が含まれていないならば、そういうカウンセリング技法のみ習得しているカウンセラーは、うつ病、自殺念慮を持つ人に、積極的な助言ができない。つまり、話を聞くだけの態度になりやすい。
- だから、カウンセリングの方針を説明できない。つまり、カウンセラーも、インフォームド・コンセントをしていない。
- カウンセラーは、患者の話を聞くだけのカウンセリングが多い。そのために、患者が、1,2回で絶望して、カウンセリングを中断してしまう。
こういう問題があるために、「自殺の減少の問題の中で、最終治療は、我々カウンセラーにまかせてほしい」とカウンセリング業界の人が言わないのだろうか。これまでの、現実の自殺防止のとりくみの中で、カウンセラーは、最初か途中の相談機関の位置づけとされ、最終治療は、医者の薬物療法になっているようだ。その薬物療法に限界があれば、心理療法者である「カウンセラー」がもっと重要な役割ができるはずなのに。厚生労働省は、カウンセラーにも、治療の役割を期待しているが。