私たちの心理療法の重要なカウンセリング技法を「自己洞察法」と呼んでいます。これを、心の病気の人を治療する根本的な心得としてご指導しています。アメリカでは、マインドフルネス、アクセプタンス(M&A)の意味を持った心の処理のしかたの基本の基本であると、評価されています。思想的な宗教の要素ではないのです。
日本では、坐禅が似ているのですが、アメリカの人たちが大切にする部分を、やさしく教えようとはしていません。日本の坐禅は、宗教的思想と関係づけられています。開祖がいうように、目的をもたないで坐禅するのだ、という「思想」や、「悟り」を得るために坐禅するのだという、宗教的目標を持っています。カウンセリングに用いる「自己洞察法」は、坐禅と似ているが、目標や心得がかなり違っているということです。
「自己洞察法」を、心の病気の治療に、主として、ご指導していますが、本当は、すべての人が、小中学生から、身につけておくと、社会問題が減少するだろうということが確実な、心得です。
私たちは、すべての人が、日々、感情と欲望を起こします。感情は、怒り、不安、恐怖、ゆううつ、後悔、悲しさ、嫌悪などが、陰性の感情です。喜び、楽しさ、嬉しさ、などが陽性の感情です。欲望は、食、性、睡眠、などへの欲望、ものをほしがる欲望、建設的なことをしたくなる社会貢献的な欲望など種々あります。人間として自然のこと、社会的にもルールの枠内で認められている欲望もありますが、抑制しないと犯罪になるか、他者を傷つける欲望があります。
「自己洞察」、M&Aは、こうした、すべての人の感情、欲望についての基本的な心得を、瞬間瞬間実践することです。
人間が、感情・欲望を心に感じた時の、処理のしかたが、3種あります。
- @ふりまわされる。
感情、欲望にふりまわされて、冷静さを失っている状態にある。
- A何かの行動で、まぎらす。
心の病気や非行犯罪になる行為にただちに移る。食物(過食症になる)、アルコール(→依存症)、 自傷(リストカット)、強迫行為・(→強迫性障害)、非行・暴力・犯罪・いじめ・虐待など。
(自己洞察は、瞬間の心の用い方だから、スポーツしたり、好きな趣味などをするのとは違う次元の行為です。おちついたら、そういうことができる人でも、「まさに怒り・欲望が起きた瞬間」に、どうするかの次元のことです。そういう人でも、瞬間的には、@Aをするかもしれない。スポーツ、芸術、芸能、政治、あらゆる領域で、成功しているかに見える人が、うつ病になり、自殺していますので、こういう「自己洞察法」のスキルを実践していないのです。自然に習得されるということはありません。坐禅に似ていて、その気になって習得しないと身につきません。自分は、習ったことはないが、そうしていると思う人がおられるかもしれませんが、違っているはずです。)
- B瞬間の自己洞察
静かに感情・欲望を観察して、感覚から衝動、行動にいたる自分の処理プロセスのどこにあたるかを瞬間的に洞察して、わかったら、その感情・欲望から心を放して、目前のもの(仕事、対話中の相手)に集中して、事実の情報収集に全力をあげる(マインドフルネス)。そして、2つの選択のどちらかを取る(アクセプタンス)。
- (A)その感情・欲望をよびおこす原因になるものをすぐに変化させられないとわかった場合、不快であっても、善悪の判断をせずに、まぎらし行為に移らず、そのまま、その不快を受容しつづける。(たとえば、電車の中で、不安が起きたら、不安はそのまま受け入れて、目前のもの音に心を集中する。ある人と対面して馬鹿にされる言葉があって、怒りがこみあげた時、(あるいは、人の様子を見ていて怒りがこみあげた場合)、@Aの行為にすぐ移らず、静かに相手の顔を見たり、声に集中して、(A)(B)どちらかの選択をする。相手が目上の人などで、状況を変化できない場合、怒りがあるのを自覚しながら、受け入れながら、相手の言葉を傾聴し、よく見ている。変更できる場合、(B)を選択する)