書籍紹介「医者にうつは治せない」織田淳太朗、光文社新書
著者自身が、うつ病になり薬物療法を受けたが、効果に疑問を持ったこと、入院中に知った薬物療法の弊害、治らない患者、自殺していった知人をみて、薬物のみによるうつ病の治療を批判している。
薬物療法だけでは治らなかった例がいくつか紹介されている。こういうことは、医者主導のうつ病、自殺防止活動で紹介されることは少ない。病気ならば、療法によって、人によって、効く、効かないがある。治療法は、どれも(私たちの療法も)絶対ではないので、しばらく(6カ月〜1年か?)治療して治らない場合、効果なしとして、他の療法を試みるべきだろう。
- 薬物療法で治らない事例A
A子さん、著者が入院して知り合った女性。過去に何度か、リストカットをしたことがあった。 ある病院に入院して、うつ病の治療を受けた。 「A子の主治医は患者うちで「患者を薬漬けにする」ドクター」と囁かれていた三十代前半の若い医師だった。A子も不調を訴えるたび、薬だけがどんどん増やされていった。一度、彼女の服用する薬を見て、驚いたことがある。抗うつ薬と抗不安薬が私のそれの約三倍、睡眠薬に至っては約四倍もの量があったからである。
しかし、薬が増えても、彼女の症状は緩和されることがなかった。それどころか、しばらくすると一日の大半をベッドの中で過ごすようになった。前出の長瀬がそうだったように、猛烈な眠気が原因だった。」
以下、織田氏は、抗うつ薬の、副作用について述べる。
A子さんは、その後、平成11年5月退院。違う病院に通院、以前よりは薬が減った。治らないので、東京の生活をやめて、郷里の父のもとに帰り、そこの病院の外来で投薬治療。著者は、メールで「慰め」の文を送っていた。だが、ある日、自殺した。
「私が後に精神科の受診を回避し、服薬の一切を放棄したのは、この彼女の自殺と無縁ではない。なぜ、彼女はよりによって退院後に自らの命を絶ったのか。長期にわたる入院治療の意味は、いったいどこにあったのか。彼女の主治医が推し進めた薬物増量の措置に、どんな効果があったというのか。そもそも彼女は本当にうつ病だったのか。
これらの私の疑問が、投薬中心療法に対する不信感に繋がったのは、少なくとも否定できない。」(53頁)
「本当にうつ病だったのか」というのは、他の病気との誤診を疑うのである。うつ症状が伴うが、主たる病気は、別ものであることがある。不安障害、パーソナリティ障害や統合失調症などとの誤診がありえる。軽い「うつ病」でも、心理療法ならば、副作用もなしに、早く治った可能性があるのに、薬物療法を始めたばかりに、副作用のために、その作用をおさえる薬を追加されて、学業、仕事からとおざかり、かえって重症化する場合もあるだろう(この本にも記述されている)。
誤診して、薬物療法を開始すると、処方する治療薬が違うのだから治らず、副作用から正常な生活を送れなくなるケースが起こりえる。うつ病でなくても、長びくと苦悩から、かえってうつ病をひきおこし、うつ病が長引いていると見られてしまう。彼女の場合、最初、うつ病だったのかどうか、そこを疑う。
秋田県の予防対策を実施してきても、3割ほど減少したところがあるとのこと。だが、残りの7割が、薬物療法でも治らないものが多く含まれていないのか、そこを分析して、他の治療法を加えることが必要ではないだろうか。社会の仕組みの改善からばかりではなく、なってしまったうつ病、自殺念慮、パニック障害などの治療法の質の向上も対策をとってほしい。
私は、心理療法絶対主義ではない。そんなことをすれば、患者が困る。心理療法に向かない患者もいる。患者によって、経過によって、患者に最もあった治療法を常に検討していくべきだ。医者やカウンセラーの固定観念にとじこめてはいけない。
他の例も、別な時に、ご紹介して、薬物療法が効かないケースへの対策の必要性を考えたい。