うつ自殺予防策研究が厚労省によって開始
厚生労働省がうつ病による自殺を減らすための初の大規模研究に着手すると報じられた。(朝日新聞、6月11日夕刊)
厚労省の研究班が3月、うつ病による自殺予防について、各地の先駆的な取り組みや課題と評価を報告書にまとめた。その上で、二つの研究計画を提案した。今回の大規模研究では、自殺率20%削減の成果目標を設定する。
- (1)「地域特性に応じた自殺予防地域介入研究」
- (2)「うつによる自殺未遂者の再発防止研究」
(1)「地域介入研究」では、自殺予防介入プログラムを行う地区(5カ所程度、7万5000人)と、通常の自殺予防策の地区(同)を比べ、06年度から3年半で効果的な方法を見いだす。
(2)「再発防止研究」は、うつ病による自殺未遂で救急救命センターに搬送された人が対象。3年半でうつ病の再発を30%減らすのが目標だ。具体的には、救急部門と精神科の連携がとれた複数の医療機関に搬送されてきた1000人のうち、半数については通常の治療に加えて、電話やメールによる相談、ITの症状判定プログラムを使うなどで、うつ病の再発率や自殺未遂率などを比較する。
この研究で、自殺率20%削減の成果目標を設定する。この程度の自殺は減少するのであろう。今、自殺を思っている人は、思いとどまって欲しい。この研究の成果が数年後に現れるはずだから。
さて、この大規模研究の成果が現れても、2010年に、なお、2万2千人も自殺があると見込む。この研究には触れられていないが、医師による薬物療法の技術向上、うつ自殺対策専門に選ばれたカウンセラーの教育も早く開始すべきである。
相談員・カウンセラーが心を病む
忙しくて、うつ自殺に興味のないカウンセラーも多いだろうから、カウンセリング手法の教育・向上は、医師・カウンセラー全部を対象と考える必要はないだろう。うつ自殺のカウンセリングは、難しくカウンセラー自身がストレスを受けて、心を病みかねない。クライアントの苦悩・感情に巻き込まれて、カウンセラーが感情的になる。感情は、心を病むもとである。「逆転移」がある。連載3回の「仙台いのちの電話の相談員」の写真の下に「自身も苦しむ相談員は、定期的に意見交換会を開き、互いにケアし合う」とある。
いのちの電話相談員は常勤ではなく、月に何回かの応対をするのだが、それでも、自殺を考えている見知らぬ人との会話からは、ストレスを感じる。それによって、相談員の側が苦しむ。相談員になる人は、社会貢献の意欲がありやさしく誠実な人が多いであろう。だが、こういう傾向が、「うつ病」になりやすい。
一般のカウンセラーや医師は、常勤である。うつ病のクライアント(患者)を毎日、数多く応対するので、かなりストレスを受けるだろう。通常の医者にもうつ自殺が多い。うつ病自殺の専門家であっても、自分自身が、それに陥ることもある。この問題の支援から離れていく人も多いであろう。(私もいつ撤退するかもしれないのだ)
こういうことがあるので、むつかしそうに見える深刻な問題のカウンセラーになる人は限られる。私は、いくつかのカウンセリング組織を見ているが、「治す」カウンセリングができる人は、ごく少数である。
医療の質・カウンセリング手法の向上、社会のエゴイズム改善も
04年の自殺者数、3万2千人を、2010年に、2万2千人にする。厚生労働省の研究によって、6千人規模の自殺は防止できる。政治、政策としては、そこまでなのであろう。だが、あとの、2万2千人の自殺がある。大規模研究で用いられる手法は現行のものであろう。現行の医療・手法では救えないうつ自殺もあるだろう。さらに、うつ自殺を減少させるのは、薬物療法、心理療法、カウンセリングの質の向上が必要である。